1年目の終わりに思うこと part2

続き。
ここからは入ってからの話。

2月に入りAWSに入社して、早々にシアトルに出張になった。色々なトレーニングがあるかと思いきや、自分の時はシアトルで実際の仕事のお手伝いをするのが主になった。お客さんの名前はかけないけど、誰もが知ってるような企業での利用を実際に目の当たりにすることになって、しかも桁違いの使い方をする。それは本当に面白い体験だった。自分の中にこのくらいの規模だとこれくらいのリソースを使う、こういう使い方をする、そういうのが腹に落ちた瞬間だった。

出張中にはこんなこともあった。ある日、ホットドッグを買おうと並んでいたら、やたらよくしゃべる人がいるなあと思って後ろを振り返ると僕の上司とJames Hamiltonがいた。時間は正確にはわからないけど、そこから15分くらいデータベースや分散コンピューティングの話をしたのを覚えている。また、有名・無名関わらず、本当に抜群に頭が良い人がいる、そして謙虚であるという事を目の当たりにした最初の出張だったように思う。特に何人かの人には本当によくしてもらっていて、色々教えてもらっている。いつか与える側にまわれればと思う。

また出張中だけでなく、今もだけど、社内リソースをふんだんに活用して、表層だけではない中身を理解するようにしている。コンセプト・もたらす価値・仕組み・詳細を理解しようと。無茶苦茶社内リソースとかは見ていると思う。正直それはエキサイティングなことだし、全然苦痛じゃない。今でもまだわからない事も多いけど。クラウドが今更どうこう言うつもりはないけど、ひとつだけ言うとすれば論文などを含むパブリックなドキュメントや表層の動きだけではわからないことが色々あるのを肌で感じている。別にAWSに限った話ではなく、実際に動いている・使われているものを見ないと本当にスケーラビリティが求められる環境がどのように動くかは体験できないとは思うし、何よりそれで高いレベルでサービスが出来ていることは知れば知るほど驚きだった。


3月から東京リージョンが開設し、すぐに震災が訪れた。多くの人命が失われた震災、および原子力発電所の悲劇は言葉がない。いまでも日本は復興していないし、今後もしばらくは痛みを伴う。出来るだけのことはしたいと思う。

4月からはもう忙しいにつきる。正直気が付いたら1年経っていた。

最初の頃は、行ってみたら椅子がないようなベンチャーから誰もが知る大規模なお客さんまで色々行った。カオス真っただ中だった。あまりの違いに1日のスケジュールを見てニヤニヤしてしまう日もあった。レンタカーを返すところから新幹線乗るまで5分しかない、そんなこともあった(地方めぐり)。その中でも徐々にAWSの人数も増えてきて、比較的規模の大きなお客さんを担当する事が多くなった。得てして利用には慎重なお客さんが多い。ただその中でも利用しようとしてくれている人、口調は厳しいがちゃんと課題をくれる好意的な人がいて、そこを丁寧にやるしかないと思っていた。時間はかかる。

あと、エンタープライズのお客さんとひとくくりにするのは正直あまり好きじゃない。抱えている課題が全然違うし、本質を見失うと思う。そもそもそういう切り分けはエンタープライズとソーシャルアプリケーションという二極軸にしたいバズワードにしか聞こえない。どちらのお客さんにとっても失礼な話だと思う。課題はお客さん毎に違う、そういう心持ちで今後もいたい。

とはいえ、比較的規模の大きなお客さんを業種によらず訪問してたので、大きくざっくりと日本のお客さんの感覚が少しはつかめるようになってきていた。今までは開発サイドだけが主体だったけど、ビジネス判断でしかできないジャッジが多いことがよくわかるようになった。その中でも、こういう技術で取り組むと効果的だ、そういう感覚を得られたのは大きい気がしている。加えて、お客さんの中に本当にスマートな人がいた事が自分には本当に刺激になっている。概してそういうスマートな人は見る視点が全然違ったし、合理的だ。こういった人たちの意思決定の迅速さと方向性のつけ方が企業の基礎体力に直結しているように思う。勿論ぐうの音も出ない宿題ももらったりもしたけども(当然内緒である)。そうこうしているうちに、企業の中には必ずああいうスマートな人達がいて、そういう人にはAWSはある一定の価値がもたらせることも経験的にわかっていた。中には(ちゃんとした)クラウドが明らかにセキュアかつ経済合理的なことはわかっているし、あとは自社の導入時期だけの問題と言い切る人もいた。

余談だけど、ちなみにそういう方々はSIおよび今までのベンダがどうやって金をとってきたかをよくわかっている。きちんとユーザ目線で見合ったものを提供しているところは問題ない。しかし、そうではないと少しでも思うなら、いろいろ考えて早く動いた方がいい。現状"つけにしてもらっている"という感覚をもっていないと、本当に危ないと思う。ユーザさんも生き残りに必死だ。それを腹におちて考えて行動しているかどうか、エンドユーザ目線で言うとクラウドどうこうではなくそこに尽きると思う。

同僚も増えていった。僕と同じ職種にある人達(@ar1、@c9katayama、@understeer、@gentaw0)も人数が増えていった。勿論日本だけではない。ここまでダイナミックに変わっているのは本当に良い経験だし、なかなか得られない事だと素直に思う。勿論カオスな部分もあるけど、それを(大部分は)楽しんではいる。今年は昨年ほどはそういうカオスが少なくなりそうで若干さみしくもある。組織としてはそれで間違っていないとも思うけども。

使われるテクノロジーも変わる。基礎が大事なのは言うまでもない。表層に惑わされるのもたまには良いけど、基礎がわかっていないとなかなか先に進めない。それを踏まえたうえで色々変わっていくと思う。その一つの中核はプログラマブルなインフラ、しかも開発者一人一人がいつでも使えるようなプログラマブルインフラが破壊的なイノベーションだと思う(勿論AWSだけではない)。もっと言えばオープンソース+プログラマブルなインフラ。開発と運用の垣根が徹底した自動化で大幅に無くなることで、運用管理部分もほぼインフラの出来るプログラマ(またはプログラムの書けるインフラエンジニア)だけで行えるようになる事は、エンドのお客さんにとっては福音に思える。もう一つは分散コンピューティングのテクノロジ。ようやくそれが実現できるインフラが誰でも入手できるようになってきている事が素晴らしいことだと思う。多くの人がうまく活用できるようになればと思う。他にも今年も大きく変わっていくんだろうと思うし、個人的には何かそういうものを作ったり試せればと思う。

1年振り返ってみて、何より経験する事を最優先してきたように思う。そもそも今の会社へ来る最大の決め手も経験することだった。別に日本企業が悪いと言ってるわけではない。あくまで個人的に経験してみたいという極めて主観的な欲求に従っただけだし、今のところそれでよかったと思っている。勿論失ったものがないわけじゃないけど、そこはトレードオフなので飲み込んでおく。もう若くないけども、2012年もそうありたい。